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東京高等裁判所 平成2年(ネ)897号 判決 1991年2月20日

控訴人

山見徹

右訴訟代理人弁護士

大口昭彦

被控訴人

炭研精工株式会社

右代表者代表取締役

永井彌太郎

右訴訟代理人弁護士

八代徹也

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

(二)  控訴人が、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(三)  被控訴人は控訴人に対し、一一万一〇三〇円及びこれに対する昭和六一年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに昭和六一年五月から毎月二五日限り一八万四〇〇六円を支払え。

(四)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴人を棄却する。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示(ただし、原判決書一一頁三行目「一二条」を「一二号」に、一七頁末行、一八頁五行目「適性配置」を「適正配置」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、原判決主文第一項の限度において認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

1  原判決書二八頁五行目の「及び」の次の「きょうき」を削除する。

2  同三九頁三行目「そして」から九行目までを次のとおり改める。

同月三一日、右渡辺が被控訴会社の西條総務部長らとともに控訴人に会い、前記懲役刑に処せられた事実を踏まえ、控訴人に、成田の件について刑事事件に関係したことはなかったか、会社に重要なことで申告しなければならないことがあるのではないかなどと質したのに対し、控訴人は、悪いことはなにもしていない旨答え、更に、「前科、前歴があるのではないか。」との質問には、知っているのであればいう必要がない旨答え、「入社の時の学歴、経歴等で現在変わっているものはないか。」との質問に対してもこれを否定した。そこで、渡辺らは、経歴詐称、七日以上の無断欠勤及びビラ配りという懲戒解雇事由があり、このままでは懲戒解雇をすることになるとして、控訴人に任意退職を勧めたが、控訴人はこれを拒否した。翌四月一日、渡辺らは、控訴人を呼び、前日と同様の質疑をしたが、控訴人は同様の応答を繰り返すのみで、任意退職の勧奨にも応じなかったため、ここにおいて、渡辺らは、控訴人を懲戒解雇する旨の意思表示をし、併せて、控訴人に対し、予告手当金額を告げて受領するように促したが、控訴人は、予告手当を受領して裁判に負けた例があるとしてこれを拒否した。

3  同四六頁六行目「したがって、」を「そうすると、休暇届が提出されたことにより、少なくとも昭和六〇年三月二〇日以後の欠勤については事前の届出がされているというべきであるから、」に改める。

4  同四八頁五行目「ところで」から同四九頁三行目までを次のとおり改める。

ところで、雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべきである。就業規則三八条四号もこれを前提とするものと解される。

そして、最終学歴は、右(1)の事情の下では、単に控訴人の労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは明らかであるから、控訴人は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。

5  同四九頁末行「そうすると、」から同裏一〇行目「右認定の妨げとなるものではない。)」までを「しかしながら、履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべきであり、公判継続中の事件についてはいまだ判決が言い渡されていないことは明らかであるから、控訴人が被控訴会社の採用面接に際し、賞罰がないと答えたことは事実に反するものではなく、控訴人が、採用面接にあたり、公判継続の事実について具体的に質問を受けたこともないのであるから、控訴人が自ら公判継続の事実について積極的に申告すべき義務があったということも相当とはいえない。」に改め、同末行「及び公判継続中であること」を削除し、五一頁二行目「いうべきである。」を「いうべきであるが、公判継続中であることを告げなかった点は同号に該当しないというべきである。」に改める。

6  同五三頁三行目「右1(六)」から九行目までを「前記1(八)認定の事実からすると、被控訴会社は、本件解雇当時、控訴人が前記1(二)(1)及び(2)認定のとおり二回にわたり懲戒刑に処せられたことを認識しかつ重要視していたのであり、そのことは、本件解雇に先立って行われた被控訴会社と控訴人との折衝の課程で控訴人においても充分知り得たものであったことが明らかであるから、本件懲戒解雇の意思表示の際解雇の根拠規定として挙げられた就業規則の規定の中から、たまたま、これに該当する就業規則三八条一二号が脱落していたからといって、後に本訴において右事実を解雇事由として主張できなくなるとは解されない。」に改める。

7  同五三頁一〇行目「虚偽の理由を」を「虚偽の理由の」に、同五四頁七行目「思い」を「重い」に改める。

8  同末行、同五五頁初行「認定のとおりであるが、」を「認定のとおりである。」に改め、同二行目「右懲役刑は、」から同一〇行目末尾までを削除する。同末行「しかし、」を「そして、」に、同五六頁四行目「しかし、」を削除する。同七行目「窺われ、8の「その他重要な事項も、」を「窺われるものの、8の「その他重要な事項」は、」に、同九行目、一〇行目「限ると解する余地があり、被告会社主張のように賞罰がこれに含まれるかは疑問である。」を「限定して解する根拠はなく、被控訴会社は従業員を採用するにあたり履歴書を提出させて賞罰の有無を把握しようとしていることは、控訴人の採用経過から明らかであるから、8の「その他重要な事項」に賞罰が含まれるものと解すべきである。」に、同一〇行目「仮に、」を「しかし、」にそれぞれ改める。

9  同五九頁五行目「及び公判継続中であるという二点においてその経歴」を削除する。

10  同九行目「あったのであるから、」から同一一行目末尾までを次のとおり改める。あったことは否定できない。控訴人が昭和六一年三月一六日公務執行妨害により逮捕され、引き続き同月二七日まで勾留され、そのため同月一七日から二七日まで休日を除き九日間勤務しなかったことは前認定のとおりであり、(証拠略)によれば、控訴人は全国日雇労働組合協議会山谷争議団主催の山岡強一追悼人民葬集会に参加し、デモ行進中にデモ隊から警察機動隊に対し空ビンや石が投げられたことから、警察機動隊とデモ隊が衝突し、その課程で控訴人は逮捕され、勾留されたことが認められ、前掲渡辺証言及び控訴本人の尋問結果によれば、炭研精工労働組合は控訴人の解雇撤回闘争を支援をしておらず、静観していること、前記認定のとおり、被控訴会社が控訴人の経歴を調査して、控訴人は昭和五二年五月の成田空港反対闘争と昭和五三年三月の成田空港開港阻止闘争に参加したことに関連して、有罪の確定判決を受けたことが判明した後、被控訴会社の渡辺総務課長と西條総務部長は昭和六一年三月三一日控訴人と会って、「会社に重要なことで申告をしなきゃならんことがあるんじゃないか」と述べたところ、控訴人は、「私は悪いことはしていないんだから、申告する必要はないです。」と答え、さらに、「前科、前歴があるんじゃないのか」という質問に対し、控訴人は「知っているんだったら、言う必要はないじゃないか」と答えたこと、控訴人は右有罪の確定判決を受けた後も成田空港反対闘争に参加してきたこと、以上の事実が認められ、これらの控訴人の言動を見ると、控訴人は自己の行動に対する反省の態度は見受けられず、依然として、自己の主張が正しく、既成の社会秩序を否定する考えが強く残っているといわざるを得ないのである。

これらの事情を考慮すると、控訴人の被控訴会社における地位や職務内容を斟酌しても、なお、控訴人には懲戒解雇の事由があり、これにより被控訴会社が控訴人を懲戒解雇したことは相当であったというべきであるから、懲戒解雇が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したということはできず、解雇権濫用の主張は採用することができない。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口繁 裁判官 根本眞 裁判官 安齋隆)

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